Jun 28, 2025
第1週 月曜日 13.00-13.30 デザイン論の探求:機能性を超えた豊かな創造の世界

こんにちは。エンジニアリングの種、メインパーソナリティの西庵こと石村昭司です。午後のひととき、皆様はいかがお過ごしでしょうか。今回はデザイン論をテーマに、単なる機能や形の問題を超え、人間、技術、社会が織り成す深い関係性にまで踏み込んだ考察をお届けします。工学的視点を基盤としながらも、デザインが持つ文化的、感性的な側面を掘り下げ、良いデザインとは何かを探求する内容です。
目次
- 目次
- 1. デザインとは何か:多様な意味合いと視点
- 2. 機能性と携帯性の関係:フォームフォローズファンクションの真実
- 3. 認知科学とデザイン:アフォーダンスとシグニファイヤの重要性
- 4. デザインの歴史的背景と思想の変遷
- 5. 現代デザインの課題と展望
- 6. まとめ:デザインの本質的価値とこれからの展開
- 7. FAQ:よくある質問と回答
目次
- デザインとは何か:多様な意味合いと視点
- 機能性と携帯性の関係:フォームフォローズファンクションの真実
- 認知科学とデザイン:アフォーダンスとシグニファイヤの重要性
- デザインの歴史的背景と思想の変遷
- 現代デザインの課題と展望
- まとめ:デザインの本質的価値とこれからの展開
- FAQ:よくある質問と回答
1. デザインとは何か:多様な意味合いと視点
日本語で「デザイン」と聞くと、多くの方は製品の見た目、形、色、スタイルなどの美的要素を思い浮かべるかもしれません。例えば、「あの車のデザインは格好良い」とか「この家具のデザインが好きだ」という言い方です。確かにこれはデザインの一側面ですが、決して全てではありません。
英語の「design」という言葉は、「計画する」「意図する」「図案を描く」といった、もっと広範な意味を持っています。つまり、ある目的を達成するために構成要素や構造、機能、プロセスなどを計画し、具現化する行為そのものを指します。この観点から見ると、工学における設計やエンジニアリングデザインはまさに「デザイン活動」そのものなのです。
しかし、光学設計や工学設計と、一般的にイメージされるインダストリアルデザインやグラフィックデザイン、ファッションデザインなどでは、重点の置き方や評価基準に違いが見られます。光学設計では主に機能性、性能、効率性、安全性、信頼性、製造コストなど、客観的・定量的に評価しやすい面を重視します。これらは非常に重要ですが、それだけでは人間が真に満足し、長く愛用したいと思える製品やシステムを生み出すには不十分なことも多いのです。
そこで重要になるのが、デザインの持つより人間的、感性的、文化的な側面です。具体的には以下のような要素が挙げられます。
- ユーザビリティ:使いやすさ、わかりやすさ、操作のしやすさ。ユーザーがストレスなく効率的かつ快適に目的を達成できるか。
- アピアランス:外観、携帯性、色彩、質感など視覚的・触覚的な要素。単なる装飾ではなく、製品の性格や品質感を伝え、ユーザーの感性に訴える役割を持つ。
- アフォーダンス:物の形状やデザインが、ユーザーにどのように使うかを示唆する度合い。ドアの取っ手の形状が「押す」か「引く」かを自然に伝える例など。
- ユーザーエクスペリエンス(UX):製品やサービスの利用過程全体を通じてユーザーが得る体験や感情の総体。単に機能が使えるだけでなく、楽しく心地よい満足感があるか。
- 意味・物語性:デザインが持つ背景ストーリーや社会的メッセージ。環境配慮の素材使用や伝統的技術の反映などがユーザーの感情や連想を喚起する。
- ブランドアイデンティティ:製品やサービスが特定の企業やブランドの価値観や個性を体現しているか。ブランドイメージの構築とユーザーとの長期的関係構築に重要。
このように、デザインとは工学的な機能性や合理性だけでなく、人間の認知、感情、行動、社会や文化との関わりをも包含した、多層的で豊かな営みなのです。良いデザインとは、これら多様な側面が矛盾なく調和的に統合されている状態と言えるでしょう。
2. 機能性と携帯性の関係:フォームフォローズファンクションの真実
ではなぜデザインにおいて、単なる機能性だけでなく携帯性、つまり形や見た目が重要になるのでしょうか。ここで、アメリカの建築家ルイス・サリバンが提唱した有名な言葉「フォームフォローズファンクション(形態は機能に従う)」を紹介しましょう。
この考え方は、建築物や製品の形態はその目的や機能によって自然に決定されるべきだ、というモダニズムデザインの基本思想の一つです。機能性を追求すれば必然的に合理的で美しい形態が生まれるはずだ、という理想を示しています。
例えば航空機の流線型のフォルムは、空気抵抗を最小限に抑えるという機能的要求から導き出された形態であり、同時に多くの人が美しいと感じるものです。この考え方は20世紀のデザインに大きな影響を与えましたが、一方で「形態は機能に従う」だけではデザインの全てを説明できないという議論もあります。
なぜなら、人間は単に機能的合理性だけでなく、美的快感や象徴的意味も携帯に求める存在だからです。同じ機能を持つ二つの製品があれば、より美しく感じるもの、自分の価値観やライフスタイルを表現してくれると感じるものを選ぶことは日常的に起こっています。
携帯は機能を満たすだけでなく、ユーザーの感情に訴え、コミュニケーションを図る重要な役割も担っています。たとえばスポーツカーの流麗でダイナミックな形は、空力性能だけでなく速さや力強さ、情熱といった感情的メッセージも伝えます。一方、ミニマルでシンプルなデザインは洗練や静謐、秩序といった価値観を表現しているかもしれません。
また、携帯は製品のアイデンティティを確立し、市場での差別化を図る上でも重要です。類似機能の製品が溢れる中で独自の魅力的な形態を持つことは、競争力を高める不可欠な要素となっています。
さらに携帯はユーザビリティ、使いやすさにも深く関わっています。アフォーダンスの概念が示すように、物の形やデザインはそれがどのように使われるべきかをユーザーに直感的に伝えます。スマートフォンの画面上のボタンが立体的に見えれば、押すべき場所だと自然に認識しやすくなります。道具のグリップが手の形にフィットしていれば、持ちやすく使いやすいと感じるでしょう。
つまり、良いデザインにおいては機能と形態は単なる従属関係ではなく、相互に影響し合い補完し合う密接不可分の関係にあります。機能的要求を満たしつつ、美的で意味があり使いやすい形態を追求することが現代デザインに求められる統合的アプローチなのです。
3. 認知科学とデザイン:アフォーダンスとシグニファイヤの重要性
ここからは、デザインと人間の認知・行動の関わりについてもう少し詳しく見ていきましょう。先に触れた「アフォーダンス」という概念はこの関係を理解する上で非常に重要です。
アフォーダンスはもともと知覚心理学者ジェームズ・ギブソンが提唱した概念で、環境が動物に対して提供する価値や意味を指します。後にドナルド・ノーマンが人間と人工物のインタラクションに応用し、ある人工物がユーザーにどのような行為を可能にし、示唆しているかという意味合いで用いるようになりました。
例えば、ドアノブの形状は「握って回す」という行為をアフォード(提供)しています。押しボタンは「押す」という行為、椅子の座面は「座る」という行為をアフォードしています。重要なのは、アフォーダンスは単に物理的に可能な行為だけでなく、ユーザーがそれをどのように知覚し解釈するかという認知的側面も含むことです。
デザイナーはユーザーが意図した通りに行為できるよう、明確で誤解のないアフォーダンスをデザインを通じて提供する必要があります。不適切なアフォーダンスを提供すると、ユーザーは混乱し誤操作を犯しやすくなります。例えば、平らな金属板が付いたドアは押すべきか引くべきかが一見してわかりにくく、不明確なアフォーダンスの例です。
また、コンピューターソフトウェアの画面上でクリック可能な部分と単なる表示部分が紛らわしいデザインもアフォーダンスの問題と言えます。良いデザインはユーザーが特別な説明や多くの学習をしなくても、直感的かつ自然にどのように操作すればよいか理解できるよう、アフォーダンスを巧みに利用しています。
関連してもう一つ重要な概念が「シグニファイヤ(signifier)」です。これはアフォーダンスの存在や適切な行為をユーザーに知らせるための何らかの手がかりやサインを指します。例えば、ドアに「押す」と書かれたラベルは「押す」という行為のシグニファイヤです。スマートフォンの画面上で下線が引かれた青い文字はクリック可能なリンクのシグニファイヤとして機能します。
アフォーダンスがものの潜在的な可能性を示すのに対し、シグニファイヤはその可能性をユーザーに知らせる明示的な合図と言えます。良いデザインはアフォーダンスとシグニファイヤを効果的に組み合わせ、ユーザーの理解と操作をスムーズに導きます。
これらの概念は主に人間とコンピューターのインタラクション(HCI)、ユーザーインターフェイス(UI)、ユーザーエクスペリエンス(UX)のデザイン分野で発展してきましたが、その基本的な考え方はあらゆる種類の製品や環境のデザインに応用可能です。つまり、デザインとは単に物を作るだけでなく、人間がそれをどのように知覚し理解し相互作用するかという経験そのものを設計する営みなのです。
4. デザインの歴史的背景と思想の変遷
こうした現代のデザイン思想に至るまで、デザインの歴史の中では様々な思想や運動が生まれ、消え、あるいは受け継がれてきました。主要な流れをいくつか概観することで、現代デザインの文脈をより深く理解できるでしょう。
アーツ・アンド・クラフツ運動(19世紀後半、イギリス)
産業革命による粗悪な大量生産品への反発として、ウィリアム・モリスらが主導した運動です。中世の手工芸の精神に立ち返り、生活と芸術の統一、労働の喜びを取り戻すことを目指しました。自然のモチーフを取り入れた装飾性の高いデザインや、素材の質感を生かした丁寧な手仕事を重視しましたが、結果的に高価で広く普及しませんでした。しかし、デザインにおける質や作り手の精神性を重視する考え方は後のデザイン思想に大きな影響を与えました。
ドイツ工作連盟とバウハウス(20世紀初頭)
ドイツを中心に芸術家、建築家、工業会が協力し、工業製品の質の向上を目指したドイツ工作連盟(ドイツ・メルクブント)が結成されました。ここでは標準化や合理的生産と芸術的質の両立が議論され、1919年に設立されたバウハウスはその代表的な学校です。初代校長バルター・グロピウスは芸術と技術の新たな統合を掲げ、合理主義と機能主義に基づくデザイン教育を実践。バウハウス様式と呼ばれるシンプルで機能的なデザイン様式を生み出しました。金属パイプの椅子や幾何学的形態のランプ、機能的なタイポグラフィなどが有名です。ナチスの弾圧で1933年に閉鎖されましたが、教員や卒業生は世界各地に散り、その革新的な思想は現代建築や工業デザインに計り知れない影響を与えました。
戦後アメリカのインダストリアルデザインの確立
第二次世界大戦後、大量生産・大量消費社会の到来とともに、インダストリアルデザインが専門分野として確立します。製品の機能性だけでなく、競争力を高めるためのスタイリングや人間工学に基づく使いやすさの追求が重視されました。レイモンド・ローウィやチャールズ&レイ・イームズらが活躍し、流線型デザイン(ストリームライン)や成形合板、プラスチック製家具など時代を象徴する製品が数多く生まれました。
1960~70年代のモダニズム批判とラディカルデザイン
モダニズムデザインや商業主義的デザインに対する批判が生まれ、イタリアを中心にアンチデザインやラディカルデザイン運動が起こりました。デザインを通じて社会的メッセージを発信し、既存の価値観に疑問を投げかける実験的で挑発的な試みが行われました。環境問題への意識の高まりからは、ビクター・パパネックによる「生き延びるためのデザイン」など、デザイナーの社会的責任や持続可能なデザインの重要性を訴える動きもありました。
1980年代以降のデジタル化とユーザー中心設計
コンピュータ技術の普及により、CADやCGがデザインの表現力を飛躍的に向上させました。また、コンピュータやソフトウェア自体のインターフェイスデザインやインタラクションデザインが新たな重要領域として登場。ユーザーが快適かつ効率的に情報機器を使いこなせるかという使いやすさのデザインが製品価値を左右するようになりました。
この流れの中で、ドナルド・ノーマンは「誰のためのデザインか(The Design of Everyday Things)」を著し、アフォーダンスやメンタルモデルといった認知心理学的概念をデザインに応用する重要性を広く知らしめました。
2000年代以降のサービスデザインとデザイン思考の拡大
モノ単体のデザインだけでなく、サービス全体やユーザーが経験するプロセス全体を対象とするサービスデザインやエクスペリエンスデザイン(UXデザイン)が注目を集めています。また、複雑な社会問題—貧困、教育、医療、環境など—の解決にデザイナー的思考プロセスや共感、問題定義、創造、プロトタイプ、テストを活用しようとするデザイン思考がビジネス界を中心に広がりを見せています。
このようにデザインの概念は時代とともに対象と役割を広げ進化し続けています。単なる物の形作りから、人間の経験や行動、さらには社会システムのデザインへと領域が拡張しているのです。そしてその根底には常に「人間にとってより良いものは何か」という問いが存在しています。
5. 現代デザインの課題と展望
ここまで、デザインの多面性、携帯と機能の関係、認知科学的側面、そして歴史的変遷を駆け足で見てきました。これらを踏まえると、デザイン論は単なる美しい形を論じるだけでなく、人間、技術、社会の関係性を深く考察する非常に広範な分野であることが理解できるでしょう。
現代の光学設計や製品開発、システム設計の文脈においては、これらのデザイン論的視点をどう活用していくかが重要な課題です。具体的には以下のような方向性が考えられます。
- 人間中心設計のプロセス:ユーザーのニーズや行動を深く理解し、それに基づいた設計を進める。
- デザイン思考の実践:共感、問題定義、創造的解決策の創出、プロトタイピング、テストを繰り返す反復的な思考プロセスの活用。
- サステナブルデザイン(持続可能なデザイン):環境負荷を低減し、社会的責任を果たす設計の推進。
- UXデザインの深化:製品やサービスの利用過程全体を通じたユーザー体験の質を高める。
- 社会的課題へのデザインの貢献:貧困、教育、医療、環境問題など複雑な社会問題の解決にデザイン的思考を応用する。
こうした取り組みを通じて、デザインは単なる見た目の問題ではなく、イノベーションを生み出し、社会的課題解決にも貢献し得る強力な力であることがさらに明らかになるでしょう。
6. まとめ:デザインの本質的価値とこれからの展開
本稿ではデザインという広大で魅力的な領域を探求しました。デザインとは単に機能的要求を満たす工学的側面と、美しさ、使いやすさ、意味性といった人間的・文化的側面とが融合した総合的な創造活動です。
良いデザインを生み出すためには、これら両面に対する深い理解と、それらを統合していく体系的な思考、すなわちデザイン論的視点が不可欠です。歴史を紐解くと、それぞれの時代が直面した課題や価値観がデザイン思想やスタイルに反映されてきたことがわかります。
現代においては、単なる物の形作りから人間の経験や行動、さらには社会システムのデザインへと対象と役割が拡大しています。そして根底には常に「人間にとってより良いものは何か」という問いが存在しています。これからもデザインは、技術革新と社会変化の中で進化し続けることでしょう。
7. FAQ:よくある質問と回答
Q1: デザインと設計(エンジニアリングデザイン)はどう違うのですか?
A1: 設計は特定の機能や性能を達成するための技術的な計画やプロセスを指し、工学的側面が強いです。一方、デザインはそれに加えて使いやすさ、美しさ、意味、文化的価値など人間的側面も含み、より広範で多層的な概念です。
Q2: 「フォームフォローズファンクション」とは何ですか?
A2: 「形態は機能に従う」という意味で、製品や建築の形はその目的や機能によって自然に決定されるべきだという考え方です。合理的な機能追求が美しい形態を生むとされますが、現代ではこれだけでは説明できない側面も認識されています。
Q3: アフォーダンスとシグニファイヤの違いは?
A3: アフォーダンスは物が持つ潜在的な使い方の可能性を指し、シグニファイヤはその使い方をユーザーに知らせるための明示的な手がかりやサインです。両者はユーザーの理解と操作を助けるために重要な概念です。
Q4: なぜデザインには歴史的な背景理解が必要なのですか?
A4: デザインはその時代の技術、社会、文化、価値観を反映し、またそれらに影響を与えます。歴史的背景を理解することで現代デザインの文脈や課題、可能性を深く把握でき、より良いデザイン創造に役立ちます。
Q5: 現代のデザインで特に注目されている分野は何ですか?
A5: ユーザーエクスペリエンス(UX)デザイン、サービスデザイン、持続可能なデザイン(サステナブルデザイン)、社会課題解決に向けたデザイン思考などが注目されています。これらは単なる形作りを超え、人間の経験や社会システムにまで関わる領域です。